建築物のライフサイクル視点の新しいビジネスモデルの研究
環境、安全、資源、省エネの視点から新規と既存建築物のライフサイクルで価値評価と維持への関心が強い。P2Mでは、スキーム、システム、サービスのプロジェクトモデルを提案しているが、需要創造のためのREITタイプのスキームモデルや資産価値評価とリニューアルへのサービスモデルを研究対象とする。

リーダー 田中 和夫 アドバイサー 出口 弘

「建築物ビジネスモデル研究会」の活動が始まる



平成18年3月23日「建築ビジネスモデル」研究会(リーダー大成建設田中和夫正会員8名、参加希望者2名)の合同研究会が日本工業大学神保町キャンパスで開催され、リーダーが研究活動方針についてプレゼンを行い討議が行われた。

 





建築物のライフサイクル視点の新しいビジネスモデルの研究

主旨概要・・では環境、安全、資源、省エネの視点から新規と既存建築物のライフサイクルで価値評価と維持への関心が強い。P2Mではスキーム、システム、サービスのプロジェクトモデルを提案しているが、需要創造のためのREITタイプのスキームモデルや資産価値評価とリニューアルへのサービスモデルの研究対象とする。・・となっています。



    

今回のこのテーマに関連が深い部分の建築の実情について説明しますと、まずエンジニアリング領域ですが、産業系施設で需要の高いエンジニアリング技術として、「医薬品施設」「食品施設」「物流施設」「液晶産業、電子デバイス施設」など多方面にわたりますが、中には“村おこし・地域産業再生”を目的とした「温泉事業や海洋深層水の利用施設」といった新しい分野のエンジニアリングも登場してきました。またエネルギー系施設では「石油施設」や「原子力施設」、環境系エンジニアリング施設では「水処理施設」「リサイクル施設」「廃棄物処理施設」「省エネ・新エネルギー施設」などが上げられます。

      


こういったエンジニアリング技術は建物の新築時に計画されることは勿論ですが、既存建物のリニューアルでも機能向上を目的にそれぞれの要素技術を計画に組み入れて施設に実装させることも通常よく行われることです。またこの他にもエンジニアリングソリューション事業の位置付けとして「環境アセスメント」や「土壌汚染・水質汚染環境対策」などエコロジー分野の活動も盛んです。

       


次に都市開発領域を簡単に触れます。中でももっとも最近よく話題に登場するものとして、公共事業やその施設に民間の企画力と事業運営力を活用する手法としてPFI事業があります。またニュータウンやリゾートなどの未利用地の開発を行う開発事業、すでに現存する既成市街地の再開発を目的とした市街地再開発事業区画整理事業などもあります。そしてこれらのプロジェクトの意味合いには「地方中核都市の中心街活性化」であったり、「遊休地や国公有地跡地の土地の有効活用」であったりとその目的も様々です。そしてそのプロジェクトでは官民共同のプロジェクトの形態で実施されることも増えてきているのも実情です。

        


では次にリニューアル領域に目を移してみます。この領域では一般に建物の構造的な機能低下と、社会の要求に合わなくなる陳腐化などによる社会的機能低下がありますが、構造的な問題は建築技術上、保全や維持によってある程度促進を遅らせることもできますが、いずれは寿命がきます。しかし社会的な機能低下はリニューアルの専門技術によって前向きな改善が可能です。その活動の一旦を紹介しますと、“企業の社会的貢献や施設効率の活動に提供される技術である環境保全やエネルギースシステムの導入”あるいは、“企業の経営活動を情報系システムで経営支援するツールにファシリティマネジメントシステム、ビルディングマネジメントシステム、建物ネットワークシステムなどがあげられます。またさらにリニューアルでは建物所有者の経営支援という側面にも関わることから、コンサルティングの色彩も強く“建物を経営資源として捉えて収益向上や建物維持の計画管理で資源配分のための支援技術の提供”も盛んに行われるようになってきました。このような状況から最近のリニューアル事業の傾向では、省エネやオフィスのIT環境整備と執務環境の向上を目的にしたオフィスリニューアルであったり、全くその用途を変えてしまうコンバージョンリニューアル、医療技術の進歩や利用者のサービス向上を目的に進められる病院再生事業、少子化対策としてその需要確保に努める学校経営の再生事業など、建物や施設の価値の向上を目指す経営者の努力がそこに伺えます。

    


ではなぜ建築の事業領域がこのように多方面で広範囲に及ぶのかとなりますと、建物という一つの資源を60年から70年という非常に長いライフサイクルで見つめることからそれは出発するのですが、例えばスキームの領域ではPFIや再開発事業などのように10年以上にも及ぶ場合もありますし、またサービスの領域にある建設完了後の建物の構造上の耐用年数が65年といわれる中で、建物を出来るだけ長く利用して、そこで生み出す収益の最大化を図り、施設維持やメンテナンスに関わる費用の最小化を目指すことはとても重要なテーマとなるからです。

    


そこでこの事業者の収益に代表される一連の価値とはどのようなものなのかとなりますと、直接の事業収益の他に建物の持つ資産価値、市場が評価するブランド価値や社会貢献価値などいろんな側面を持っていることに気づきます。またこのような建物が創り出す豊かな価値に広がる文化や産業はその地域の活性化に大きく貢献することにもなります。
 
    


一例を取りますと、地域開発のために自治体とともに民間企業が中心になってその地域全体の冷暖房システムを建物内に組み込むことで、エネルギー効率と省エネに貢献しようとする事業も登場しています。またこのような事業では、その地域の将来の開発や発展が続く限り存続するわけですから、とても長いスキームに視点を置いていることが理解できるのではないでしょうか。

次に再開発事業などでは官民共同プロジェクトも多くありますが、これは地域活性の一つの手法でもあり“公共用地つまり官と、民である民間施設の複合施設として一体で計画し、建設する事業方式”です。つまり公共施設だけでは使いきれない土地の利用権を民間に賃貸あるいは売却して公共の財政に寄与させるとともに、民間施設の賑わいの増進や機能補完への期待が基本的な仕組みとなったものであり、岡山駅前・秋田駅前・高松駅前などすでにいくつかの自治体で実施されています。またこのような事業では企画計画のスキームから建物が完成した後の施設運営を官と民が一緒になってサービスの領域に踏み込んで行くことから考えてもライフサイクルをどのような視野で考えるかは地域を巻き込んで進められることになります。

 

そこで今回の研究テーマについてですが、これまで述べた通り、再開発事業やPFI事業などのように上流のスキームの段階での事業者や地域全体を含めてのプロジェクトあるいはプログラム形成はとても重要であり、またそこには官と民の共有するビジョンがなければなりません。またその長いライフサイクルをプログラムにどのように組み込んで行くかを考えることは、建物価値の維持とさらなる活用を目指すサービスの領域での役割が一層重要になってきます。

こういったP2Mの教えるスキーム・システム・サービスの価値連鎖に視点を置いて、そこにモデルを探っていくことは大切なことであるはずです。最後になりますが、国土交通省の「平成17年度各省庁営繕計画書に関する意見書」の中で“約5,200万uに登る官庁施設は2014年には建設後30年を経過する施設が40%を超える”と推定していますが、そこで今、行政再建・地域活性が叫ばれる中で本テーマを考えることは意義の深いことではないでしょうか。


平成18年3月23日
「建築ビジネスモデル」研究会の合同研究会
発表者のみなさん